世界屈指のヴァイオリニストによる有力な新譜が次々とリリース

国内外で活躍する世界屈指のヴァイオリニストによる有力な新録音が続々と登場した。しかも3人とも、昨秋から年末にかけての来日公演で素晴らしい名演を聴かせていった。

<BEST1>

庄司紗矢香&カシオ―リ モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ集 Vol.1

庄司紗矢香(ヴァイオリン)/ジャンルカ・カシオーリ(フォルテピアノ)
モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第28番ホ短調、第35番ト長調、第42番イ長調
ドイツグラモフォン(ユニバーサルミュージック) UCGG-9213

庄司紗矢香&カシオ―リ モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ集 Vol.1 ドイツグラモフォン(ユニバーサルミュージック) UCGG-9213
庄司紗矢香&カシオ―リ モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ集 Vol.1 ドイツグラモフォン(ユニバーサルミュージック) UCGG-9213

<BEST2>

五嶋みどり&ティボーデ ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ全集

五嶋みどり(ヴァイオリン)/ジャン=イヴ・ティボーデ(ピアノ)
ワーナー・ミュージック WPCS-13839〜41

五嶋みどり&ティボーデ ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ全集 ワーナー・ミュージック WPCS-13839〜41
五嶋みどり&ティボーデ ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ全集 ワーナー・ミュージック WPCS-13839〜41

<BEST3>

「ベートーヴェン・フォー・スリー」〜交響曲第6番「田園」ほか

レオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン)/エマニュエル・アックス(ピアノ)/ヨーヨー・マ(チェロ)
ベートーヴェン:交響曲第6番ヘ長調「田園」(編曲版)、ピアノ三重奏曲ハ短調
ソニー・ミュージック SICC-30704

「ベートーヴェン・フォー・スリー」〜交響曲第6番「田園」ほか ソニー・ミュージック SICC-30704
「ベートーヴェン・フォー・スリー」〜交響曲第6番「田園」ほか ソニー・ミュージック SICC-30704

コメント

 庄司紗矢香の進境が著しい。最新作のモーツァルトは、愛器の弦をオリジナル楽器仕様のガット弦に張り替え、コンビを組むピアニストのジャンルカ・カシオーリもフォルテピアノに挑むという攻めの姿勢が際立つ。しかも、そうした楽器を選んだ理由が、「いかに音楽を生きたものとして伝えられるかを目ざした」というから、腹が座っている。

 

 イタリアで行われた当録音でも、昨年末の日本公演でも共通するのは、尋常ではない張りつめた表現意欲の噴出だ。作品の奥底へ踏み込んで彫りの深い表情をひき出し、息をのむようなドラマを展開する。鳴りが悪いという太いガット弦をあえて採用したことでもたらされる、線の太い響きや豊かな倍音は、時にヴィオラを思わせる深みとパワーを示す。あえて古楽奏法にこだわらなくとも、敏感に反応するフォルテピアノの妙技と相まって、新鮮な驚きが連続する。実演ではベートーヴェンなども披露した。両者の切り開く新たな地平が、ますます楽しみだ。

 

 五嶋みどりも昨年11月に、この全集ディスク発売と同時に、日本公演でベートーヴェンのソナタ全曲演奏会に臨んだ。鋭い気迫とテンションはディスクでも実演でも変わらない。ピアノにフランス出身のティボーデが入ることで、軽妙な感覚が加わった。特にピアノが主導する初期作では適度に肩の力が抜けた親密さが表れる一方、中盤以降の作品では、やはりストイックな集中力が前面に出てくる。

 

 ギリシャ出身の名手、レオニダス・カヴァコスは昨年10月、バッハの無伴奏プログラムを携えて来日し、持ち前の技巧と美音で圧倒した。ピアノのアックス、チェロのヨーヨー・マと、スター3人が顔をそろえたベートーヴェン企画の第2弾は、「田園」編曲版が中心。作品のエッセンスを抽出した巧みなアレンジと共演に、心を洗われる思いがする。

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深瀬 満

ふかせ・みちる

音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。

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