今秋からの新シーズンに、日本で話題を呼びそうな指揮者の新譜が出てきた。いずれも国際的な活躍を続ける面々だけに、ディスクでも興味深い名演を聴かせる。
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ベルリオーズ:幻想交響曲/ラヴェル「ラ・ヴァルス」
クラウス・マケラ(指揮)/パリ管弦楽団

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ブルックナー:交響曲第9番(2021-22年SPCM版 第4楽章付き)
カーチュン・ウォン(指揮)/ハレ管弦楽団

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ブラームス:ドイツ・レクイエム―1868年ブレーメンでの初演再現の試み
ケント・ナガノ(指揮)/ケイト・リンジー(メゾ・ソプラノ)/ヨハン・クリスティンソン(バリトン)/ヴェロニカ・エーベルレ(ヴァイオリン)/トーマス・コルネリウス(オルガン)/ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団、他

活動に勢いがつくクラウス・マケラは今年、日本にはパリ管弦楽団とロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、二つの名門を引き連れて来演する。6月の前者は当サイトで扱った通り、鮮烈な印象を残した。公演曲のひとつが「幻想交響曲」で、本作は2024年12月にパリで収録された。
ことしは5月にシカゴ交響楽団(2027年から音楽監督就任)の定期演奏会にも登場し、筆者が現地の模様を当サイトでリポートした(アンコール:現地リポート 次期音楽監督クラウス・マケラを迎えたシカゴ響)。どんな名門を前にしても指揮のスタイルを柔軟に変え、相手の持ち味を的確に引き出す手腕は、実に非凡だ。この「幻想交響曲」も仕掛けが多く、弦楽器のノン・ヴィブラートを随所で活用したり、細かなディテールを掘り起こしたりと、作品に潜む革新性を鋭敏に引き出した。それでいてフランス風のエスプリにもあふれ、才気煥発(さいきかんぱつ)なマケラらしい快演だ。フィルアップのラヴェル「ラ・ヴァルス」も細部の積み重ねで、彫りの深い仕上がりとなった。
日本フィルの首席指揮者として出番が増えるカーチュン・ウォンは、マーラーなどの大曲に挑む機会が多い。昨年はブルックナー・イヤーにちなんで交響曲第9番を取り上げた。日本ではアダージョで終わる3楽章版だったが、もう一つのポストを持つ英ハレ管では、学者による長年の研究で全貌を現してきた第4楽章付きを演奏し、そのライヴ盤が登場した。踏み込んだ解釈で新鮮な響きを作り上げ、意欲的な展開が際立つ。最新版のCDという点でも価値が高い。
9月に来日するケント・ナガノは、独ハンブルクでのポストを2024/25シーズンで終える。ブラームスと縁のある地で長年コンビを組んだオーケストラと、1868年に作曲家自身が初演した際の曲順で「ドイツ・レクイエム」をライヴ録音した。楽曲の間や後にバッハやシューマン、ヘンデルの作品をはさんだ並びが珍しい。

ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。