世界各地のオーケストラ特有の味わいや機能性を生かした新譜が、クラシック界をにぎわせている。
<BEST1>
バルトーク ピアノ協奏曲全集
ピエール=ロラン・エマール(ピアノ)/エサ=ペッカ・サロネン(指揮)/サンフランシスコ交響楽団
<BEST2>
レスピーギ 交響詩「ローマの噴水/ローマの祭り/ローマの松」(ローマ三部作)
ロバート・トレヴィーノ(指揮)/RAI国立交響楽団
<BEST3>
「ウィーン・フィル サマーナイト・コンサート2023」
ヤニック・ネゼ=セガン(指揮)/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
現代作曲家でもあるサロネンと、これまた鋭敏でモダンな感覚がトレードマークのエマールが組むと、先鋭な響きや土臭い野性味が特徴のバルトークのピアノ協奏曲も、洗練されたスムーズな明快さに包まれ、すっかりあか抜けた様相を呈する。眉間にしわを寄せて演奏者が格闘した時代はどこへやら、まさに21世紀型のバルトークに降参だ。全3曲をセットにしてCD1枚に収めた構成もいい。
各部は妙な構えなしに、美しく磨き上げられる。その裏にシャープな現代感覚が息づいているのは当然で、まるでジャズのように軽々と踊り出しそうな場面まで出てくる。エマール自身、ハンガリーに強い親近感を抱き、バルトークの音楽に独特の旋律性や和声感を見いだしてきたという。サンフランシスコ交響楽団の機能性と、温かみを失わないニュートラルな性質も効果的に働いた。バルトークがすっかり「古典」の額縁に収まったことを、改めて認識させる快演。
レスピーギの「ローマ三部作」は、古代ローマにまつわる風景や史実を華麗な管弦楽法で彩った傑作として人気が高い。ただ、地元イタリアのオーケストラによる録音は意外と少ないのが不思議。若手アメリカ人指揮者のロバート・トレヴィーノは、首席客演指揮者を務めるRAI(イタリア国営放送)交響楽団と克明に曲のディテールを掘り下げ、劇画のように作品の魅力を引き出した。各パートの解像度が高い優秀録音も魅力のひとつ。
ウィーン・フィル恒例の行事では、お正月のニューイヤー・コンサートに加え、夏のサマーナイト・コンサートも人気がある。2023年は勢いに乗るヤニック・ネゼ=セガンを指揮台に迎え、メゾソプラノのエリーナ・ガランチャが華を添えた。演目はフランス物がテーマで、ビゼーやベルリオーズ、ラヴェルが並ぶ。名花ガランチャが輝きを放つアリア3曲が圧巻。
ふかせ・みちる
音楽ジャーナリスト。早大卒。一般紙の音楽担当記者を経て、広く書き手として活動。音楽界やアーティストの動向を追いかける。専門誌やウェブ・メディア、CDのライナーノート等に寄稿。ディスク評やオーディオ評論も手がける。